日々の生活やカルチャーを独自の視点でとらえた、個性的かつハイクオリティなプロダクトを生み出す「Chain&co.」。Tシャツをはじめとするグラフィックデザインや、オリジナリティあふれるグッズ制作、紙媒体の発行など、その活動は多岐に渡ります。
今回は「Chain&co.」を主宰する牛嶋亮さんを取材。立ち上げまでのストーリー、制作時のこだわり、そして代表作「SENTOU bracelet/anklet」をはじめとするプロダクトについてお聞きしました。
[お話を聞いた人]
Chain&co.
牛嶋亮さん
「Chain&co.」の代表。暮らしやカルチャーからインスピレーションを受けた、独創的なプロダクトを生み出しています。
“無駄に”ハイクオリティ
個性的アイテムの数々
まずは「Chain&co.」のプロダクトの一部を見てみましょう。
自身を「あまのじゃくでサブカル気質」と語る牛嶋さん。確かに「なぜそんなところに目を付けた?」という感じのアイテムも多く、独創的すぎるモチーフと、徹底的に品質を高めたディテールとのギャップがたまりません。
▲「BEER STREET #04 / Lager shirt」
クラフトビール好きに刺さるネタが満載の「BEER STREET」ブランド。 ビールのスタイルをテーマにしたアイテムが中心で、こちらの「BEER STREET #04 / Lager shirt」は、ピルスナー(ラガー)ビールがテーマなので、ラガーシャツをモチーフに。袖口にピルスナーの刺繍が入っています。
▲「われもの注意 / 取扱注意」
続いては宅配便の箱に貼られていたステッカーにヒントを得て作られたキーホルダー「われもの注意 / 取扱注意」。もしこれを首から下げれば、「私、デリケートだから」と取り扱いに注意してほしいことをアピールできます。
▲「BLP #bicycle license plate」
こちらは東京・世田谷にあるピストバイク専門店「Tempra cycle」とコラボした自転車向けのナンバープレートです。
▲「BICYCLE DIGGING Vol.1」
出版物もあります。『BICYCLE DIGGING Vol.1』は、自転車(いわゆる“ママチャリ”)の車体に描かれたブランド名だけを集めたリトルプレス(個人や団体が制作から流通までを手がける冊子のこと)です。
他にも魚の仕入れ(競り)に参加した気分を味わえる「SERI-CAP」など、とにかく“遊び心”なんていう言葉では片づけられない、個性あふれるアイテムばかり。
日常生活の中で面白いと思ったものを、自分たちなりのスタンスで仕上げるのが「Chain&co.」のスタイルです。商品の企画は、牛嶋さんが“ひとりブレスト”のような感じで案出しをすることもありますが、それよりも良いアイデアが浮かぶのは、散歩中だったりするのだとか。
ただの奇抜な“キワモノ”ではなく、「Chain&co.」のプロダクトは全てのディテールに意味があり、手が込んでいます。くだらないことを本気で追及する。他人から見たら「無駄」かもしれないほど高いクオリティからは、そんな意思が伝わってきます。
「Chain&co.」の誕生から
ファン獲得までのストーリー
牛嶋さんが「Chain&co.」を立ち上げるまでの道のりには、とても多くの転機がありました。
牛嶋さんのキャリアのスタートは、工業高校を卒業後に入社した自動車関連のベルトコンベアを作る会社でした。そこに6年ほど勤務した後、高校時代に所属していた吹奏楽部のスキルを活かすべく、音楽学院での修行を経て、チューバ奏者として活動します。
ただ音楽活動だけで食べていくのは難しく、アルバイトと並行している生活が続いたそうです。
そんなある日、牛嶋さんが好きなアーティストの展覧会に行った時に転機が訪れます。
会場となったギャラリーでは、物販のひとつとしてオリジナルTシャツが販売されていました。もともとアパレルに興味があった牛嶋さんは、そのアーティストに弟子入り。展覧会のレセプションなどのアシスタント業務をこなしつつ、イラスト制作ソフトの使い方や、シルクスクリーン印刷の技術を学んでいきました。
モノづくりの技術を身に付けたら、次はデザインスキルです。
当時、牛嶋さんは別のアーティストとの縁がきっかけで、その方が経営するボードゲームカフェでアルバイトしていました。お店のご厚意で、バリスタの技術を学びながら、空いた時間にデザインを教えてもらったり自ら実践したりして、デザインを学んでいきました。
そうして幅広いジャンルのデザインを勉強していく過程で、ゲームデザイナーやイラストレーターなど、多くのクリエイターとの出会いにも恵まれました。そこで意気投合した仲間たちと一緒に「何か面白いことしよう」と立ち上げられたのが、「Chain&co.」です。
「Chain&co.」としての活動は、保育園のブランディングのプロジェクトや、「銭湯」をテーマにしたグッズ制作などから始まり、今ではさまざまなクリエーションを展開。銭湯グッズが雑誌『OZmagazine(オズマガジン)』に取り上げられたことをきっかけに、ファンが一気に増えていきました。
有名ショップも注目
“縁”が生んだ飛躍
「Chain&co.」のプロダクトは、ユーモアとこだわりを持った大人たちを中心に、多くの人から支持を集めています。
セレクトショップ「FREAK'S STORE(フリークスストア)」で知られるデイトナ・インターナショナルのイベントに卸したり、日本各地のパルコや東急ハンズでの催事に出展したりと、全国規模の売り場で見かける機会も増えています。ちなみにJAPAN-BRAND FUNのバイヤーとの出会いも、新宿伊勢丹で開催された「伊勢丹サウナ館」というイベントでした。
クラフトビールパブや美容室、サイクルショップなど、多彩なジャンルの専門店とのコラボ実績も多数です。企画から実制作までほぼ全ての工程を牛嶋さんが担当しているため、制作が追い付かない時もあるそうです。現在はメンバーを増員して、キャパシティを広げています。
ここまで来られたのは「たまたまのご縁が重なったから」と牛嶋さんは謙遜していましたが、多くの“ご縁”に恵まれたのは、興味ある人・モノに積極的に関わっていく姿勢があってこそ。持ち前の行動力やコミュニケーション能力によるものなのでしょう。
自らの原体験を形に
風呂・サウナ関連アイテム
「Chain&co.」のプロダクトの中でも特に注目を集めているのが、銭湯・サウナ関連のアイテムです。
代表作は銭湯のロッカーの鍵をモチーフにしたアクセサリー「SENTOU bracelet/anklet」。
▲「SENTOU bracelet/anklet」キー部分がネオンイエロー、リング部分が透明のバージョン
このアイテムは日本にサウナブームが来る前から構想が進んでいたそうで、その原点は小学生の頃。牛嶋さんの地元では毎月第3日曜日に銭湯が無料だったとのことで、足しげく銭湯に通っているうちに、邪魔なはずのものなのに邪魔じゃない、そんな“ロッカーの鍵”というものへの愛着が湧いたそうです。ただブームだからなのではなく、銭湯が本当に好きで、子どもの頃から通っていたからこそ得られた視点といえるでしょう。
ちなみに今でも銭湯を愛する牛嶋さんが、銭湯に行く時に重視しているのは「仕事でどれだけ疲れているか」。ジェットバスでコリをほぐしてからサウナで“ととのう”のが、いつもの流れなのだそう。
そんな作り手の想いが込められた「SENTOU bracelet/anklet」は、企画が立ち上がった後、素材やデザインはもちろん、着用感に至るまで何度もトライ・アンド・エラーを繰り返してリリースされました。
制作はアクリル板をレーザーカッターで切り出して行われます。アクリル板は丁寧に削る・磨くを繰り返し、数字はプリントではなく一つひとつ彫刻です。
▲制作の様子をご紹介。レーザーカッターでの仕上げをキレイにするため、アクリル板にマスキングテープを貼ります
▲レーザーカッターでアクリル板を切り出します
▲文字部分はレーザーで彫刻します。番号は銭湯だけに37番(サウナ)、26番(風呂)など
▲ルーターで一つひとつ丁寧に面取りします
その名の通りブレスレットやアンクレットとして、アクセサリー感覚で着用するのも面白いですが、銭湯好きな牛嶋さんならではの提案も。銭湯やサウナに行った際に、マイボトルの目印としてかけておくと見分けがついて便利なのだそうです。
こちらの「SENTOU bracelet/anklet」は老若男女を問わず幅広い方に人気で、JAPAN-BRAND FUNでも購入することができます。
▲腕に着けたイメージ
▲ブラックライトに当てると光ります
▲銭湯でも使ってみてください
他にも銭湯・サウナグッズは多彩なラインナップがあります。
例えば、袖口に温泉マークの刺繍があしらわれたTシャツ「SENTO TEE #UD」。ただ刺繍するではなく、おなじみの温泉マークとして記号化された湯壺(湯ぶね)を「少しだけ元の姿に戻す」というテーマで、遠近や陰影をつけるために糸の光沢を使い分けたり、光の屈折を変えるために縫い方を変えていたりと、細かなこだわりが散りばめられています。
▲「SENTO TEE #UD」ホワイト
こちらは「NAFUDA / SENTO」。服やカバンにつけるもよし、定時にサウナに行くことをアピールするためにデスクに置くのもよし。話のネタになること間違いなしの名札です。
▲「NAFUDA / SENTO」
続々とイベント・催事に出展
新作のアイデアも止まらない
最後に、牛嶋さんに今後の目標について聞いてみました。
全部で3つあるそうで、ひとつは『POPEYE(ポパイ)』『GINZA(ギンザ)』『BRUTUS(ブルータス)』などで知られるマガジンハウス社の雑誌で紹介されること。もうひとつが、セレクトショップ『BEAMS(ビームス)』で取り扱われること。そして自分たちのプロダクトが実際に使われているのを、街で見かけること。
学生の頃から愛している媒体やショップに取り上げられるという、身の丈感に合っていながらもどこか夢がある、そんな素敵な目標です。
そんな「Chain&co.」からは『BICYCLE DIGGING』の続編や新作Tシャツをはじめ、アパレル、雑貨、出版物とジャンルを問わずアイデアが次々に生まれています。直近でも続々とイベントや催事への出展が決まっています。
どこかのショップで見かけたら、ぜひ彼らのプロダクトを一度手に取ってみてください。そのオンリーワンの世界観に、きっと好奇心がざわざわすることでしょう。
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