漬物という伝統的な食品を手がけながらも、現代のニーズに合わせて新しい挑戦を続ける。そんな進取の気鋭に富んだメーカーが、鹿児島県にある「水溜食品」です。
今回は水溜食品の80年にわたる歴史や、時代を超えて培われた地域とのつながり、品質へのこだわりを取材しました。同社の精神を象徴する「ごぼう酢てぃっくす」「ぽり×2(ぽりぽり) バラエティー」の2商品もご紹介します。教えてくれたのは、水溜食品株式会社 常務取締役の水溜光一さんです。
味にこだわり80年
鹿児島の老舗メーカー「水溜食品」
水溜食品の創業は昭和16年(1941年)。鹿児島県の薩摩半島西岸にある南さつま市で80年続く、とても歴史ある漬物メーカーです。
▲鹿児島県南さつま市にある老舗漬物メーカー「水溜食品」
創業当初は戦時中ということもあり、工場を構えての漬物製造は難しく、卸売業としてスタートしました。創業後から十数年がたったころ、現会長の水溜法光さんが、南九州市の農家と提携して干し大根の製造を開始。その品質が評判を呼び、会社は成長していきました。現在も地域に根差した食品会社として、長年愛され続けています。
▲水溜食品の創業者である水溜政吉さん。写真右下の男の子は現・社長の水溜政典さん
▲写真左:現・会長の水溜法光さん(右下)、写真右:創業期の従業員
主力商品は「島津梅」に代表される寒干し大根を使用したたくあんや、高菜漬けなど。近年では便利な個包装の製品も手がけています。梅酢で漬けた「島津梅」の発売当時は、着色料を使用しない製法がとても珍しく、注目を集めたそうです。
商品は通信販売のほかスーパーマーケットや百貨店、道の駅などで見ることができます。グローバル展開も積極的で、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、台湾などの日系スーパーでも販売されています。日本国内だけでなく海外の日本人や日本食レストランにもファンを抱えています。
野菜は契約農家100%
低温熟成で旨みを逃さない
水溜食品が商品開発において意識しているのは、漬物が持つ「素材のおいしさ」や「安らぎ」といった本質を大事にすること。
原料となる野菜は100%契約農家から仕入れています。例えば高菜は地元の南さつま市、干し大根はお隣の南九州市で栽培されたものを使用しています。
南九州市は冬場に北西の風が通りやすく、昔から干し大根を生産している地域。寒干し大根は鹿児島県と宮崎県で99%のシェアを占めていて、良質な大根を追い求めた結果、そこにたどり着いたそうです。
▲契約農家の野菜を使用しています
原料も厳選していますが、製造におけるこだわりも並々ならぬものがあります。
工場地下のタンクで原料を塩漬けしたあとに発酵・熟成の工程がありますが、水溜食品の漬物は、大型冷蔵庫にて-1℃の温度で低温発酵・熟成させています。通常のたくあんならこの過程で色が黄色に変わっていきますが、水溜食品のたくあんは、低温で発酵させるため、ほとんど黄色くなりません。
▲低温発酵・熟成を行う大型冷蔵庫
また、低温で熟成させることで、殺菌のために入れる塩分の量を減らすことができます。一般的な漬物の多くは、漬けたあとに水に浸して塩抜きをする「脱塩」という工程を通っています。そうしないと塩分過多になってしまうからです。一方、水溜食品の漬物は脱塩をしていません。低温の環境下でできるだけ塩分を低く抑えるように調整しているので、脱塩が不要なのです。
脱塩をしないことで、素材の風味や栄養素が損なわれず、なおかつ色もきれいな状態でお客様に届けることができます。悪性の菌が発生しにくいため、殺菌の際も熱を加えすぎずに済み、漬物のおいしさをキープすることができます。
▲工場内の漬物製造の様子
▲工場内での包装の様子
食品の安全性への取り組みにも余念がありません。
まず原料の仕入れにおいては、畑の土壌が適しているか、残留農薬がないかなどを細かく検査しています。契約農家は車で30分くらいの距離にあり、頻繁に通ってコミュニケーションを取っています。
製造工程においては、水に関しても細かく気を使い、業界の中でもきれいなクリーンルームを採用しています。
また、水溜食品では原料・機械・設備の洗浄に洗剤を使っていません。電解水を分離させたアルカリ水で汚れや油を浮かせて、酸性水で殺菌しています。一般的な食品工場で使われることの多い次亜塩素酸は香りが強く、人体への影響も良くないためです。
電解水はそのまま飲んでも問題のない安全なもので、古漬け(長期間漬け込んだ漬物)メーカーで、そこまでしている会社は類を見ません。もちろんコストや手間はかかりますが、おいしく安全な漬物のために、あえてそのやり方を採用しています。
シャキシャキ食感のやさしい味
「ごぼう酢てぃっくす」
昔ながらの製法を大事にしながらも、現代の食生活やニーズに合わせて柔軟な商品開発にもチャレンジしている水溜食品。今回はそんな同社のマインドが分かる商品を2つご紹介します。
ひとつめが「ごぼう酢てぃっくす」。ごぼうを食べやすくカットして、甘酢で漬けた商品です。
▲「ごぼう酢てぃっくす」お得な大容量の220g入り
ごぼうは信頼する青果メーカーから仕入れた国産のものを使用。生産者のトレーサビリティも備えた安心の原料を使用しています。質が悪くならないようpHの管理までしっかり行い、チルド便にて仕入れています。
▲ごぼう収穫の様子
▲ごぼう収穫の様子
水溜食品が特に大事にしているのが食感です。ごぼうは皮の部分が厚かったり薄かったりすると食感が変わってしまうため、皮と身の比率も細かく決めています。
漬け込み液の主な原料は砂糖・酢・塩ですが、分子の大きい砂糖をしっかりと浸透させるために、手作業でお手入れしたり重石の比重を変えたりと細かな調整が求められます。この手間を加えることで、味が劇的に変わります。甘酢のやさしいすっぱさは、こうして生まれるのです。
もともとこの商品が作られたきっかけは、バランスの良い食事が難しい一人暮らしの方や共働きのご家庭でも、野菜を食べてほしいという想いから。かわいいパッケージデザインや、食べやすい個包装タイプになっているのには、そんな願いが込められています。調理に手間のかかるごぼうの栄養素を、手軽に摂取できるのはありがたいですね。
▲便利な個包装になっています
▲シャキッとしていながらもやわらかい絶妙な食感。食べやすい甘酸っぱさです
食物繊維が摂れるだけでなく、シャキッとした漬物をたくさん噛むことで、ストレスの軽減や脳の活性化にもつながります。
旨みが凝縮された3つの味
「ぽり×2 バラエティー」
今回ピックアップするもうひとつの商品が「ぽり×2 バラエティー」です。醤油・梅酢・山椒の3つのフレーバーを楽しめる、寒干し大根の漬物です。こちらも便利な個包装になっています。
▲「ぽり×2 バラエティー」ボリュームたっぷりの200g入り
▲醤油・梅酢・山椒の3つの味があります
原料となる寒干し大根には、契約農家で栽培された白首大根を使用。
干し大根はふつうの大根と比べて、凝縮されて密度が高くなるため硬くなりがちです。そのため、食べやすいやわらかさの品種を採用しています。大根のブラッシングまで研修を行うなど、生産者への要望も妥協がありません。
寒干し大根は作るのに手間がかかります。まず白首大根を櫓(やぐら)で1週間~10日くらい干して、水分が抜けて3分の1ほど凝縮された状態になります。それを櫓から下ろして、カットしていきます。先端から頭の付近まで切り込みを入れてイカの足のようになった状態で、再び櫓で干します。
▲大根は一つひとつ手作業によって干されていきます
▲大根が干されている風景は、この地域の冬の風物詩です
そうして他社よりも長い時間をかけて、ほとんど水分がない状態まで干し上げます。その時点での水分活性(食品中の自由水の割合を表す数値)は0.65以下。これは細菌がまったく発生しない状態です。風味を保つために殺菌の工程を行わないので、ここでしっかり水分を飛ばすことが重要です。
天日で干すことで旨味成分のアミノ酸が増え、栄養素も凝縮されます。100gあたりの栄養素は、通常の大根の3倍にもなるそうです。
▲じっくり干すことで、歯ごたえと旨みが凝縮されます
▲長い期間をかけて、大根の水分を極限まで少なくします
収穫された寒干し大根は、冷蔵庫で氷温熟成されます。そして出荷のタイミングで取り出し、一口サイズにカットして漬け込んでいきます。
こちらも「ごぼう酢てぃっくす」と同じく食感を追求するために、皮と身の比率の規格をしっかりと定めています。あえて小型から中型の大根に絞り、漬ける際の時間にもこだわっています。そうして、絶妙な「ぽりぽり」食感の漬物に仕上がるのです。
心地よい食感とやさしくもしっかりした味付けが特徴で、食事の箸休めだけでなく、おやつ、おつまみにもぴったりです。醤油味はオーソドックス。梅酢味と山椒味は、どちらもほのかにフレーバーが香るやさしいアクセントを楽しめます。
▲シワになっているのが皮の部分。ポリッとした食感が心地よく感じます
GABAや食物繊維、カルシムなどを含み、ヘルシーで栄養価が高いのも魅力です。特にGABAはストレス軽減、血圧上昇の抑制、中性脂肪を減らすなどの働きが期待されるアミノ酸の一種で、干すことでものすごく増えます。
食べればホッとする
漬物で人生を豊かに
水溜食品では漬物を作るかたわらで、食品ロスへの取り組みも行っています。
製造過程で出た端材は近所の畜産農家に提供され、牛の飼料になります。その際は塩漬けされた端材が提供されるのですが、低塩で作っている水溜食品のものしか牛が食べないそうです。他のメーカーのものは塩分がきつくて受け付けないのでしょう。
また、見た目が悪い野菜は刻んで使用するなど、もともと漬物製造は食品を無駄にしない仕組みが昔からできあがっています。
おいしい漬物ができるのは、地元の野菜があってこそ。水溜食品は地元のイベントやボランティアに積極的に参加したりと、地域とのつながりを大切にしています。コロナ禍で大変な医療従事者に漬物を無償提供した際は、メディアでも紹介されました。
水溜食品では「人生を豊かにする商材を作る」ことをテーマに掲げ、漬物にしか表現できない世界を発信していくことを目指しています。お客様のことはもちろん、生産者のことや環境のことも考え、人々に求められる商品を作っていきたいそうです。
そのために社内の環境改善にも努め、新しいアイデアを積極的に採り入れる風土を醸成しています。自然に触れる機会の少ない都会暮らしでも、漬物を食べてホッとできる。そんな世界観を実現するための、水溜食品の今後のチャレンジにも注目していきたいところです。
※本ページの内容は掲載開始時点の情報です。最新の情報とは異なる場合があることをご了承ください。